突入

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「そういえば、ライトさんはライさんのことは知ってるのか?」 「い、いや……ルナのフレンドとかまでは流石に把握してないから……」 「そうなのか。ならライトさんも今度紹介してもらうといい。可愛らしい女性で、可憐でお淑やかな人だったよ」 「そ、そっか……キースがそこまで言う人なら会ってみたいな……」 いきなり俺に向かって放たれるライちゃんへの賛辞を、居た堪れない気持ちで聞きつつ引きつった笑いを浮かべる。 黒歴史確定の、我が人生における恥部を褒めちぎられるのがこれほどまでに精神を抉るとは知らなかった。 内心では今すぐ「やめてくれぇ!!」と叫び、全身を掻きむしりたい衝動に駆られているが、流石にこんな人の往来がある場所でやるわけにもいかず、口の中で思い切り歯をくいしばる程度に抑える。 さすがの俺とて、明日のM速で「アナザーワールドでプレイヤー発狂!攻略の疲れが原因か!?」なんて見出しで一面を飾りたくはないのだ。 「と、とりあえず!ライちゃんにはちゃんと連絡を入れておくから、また何かあったらキースには連絡するよ。私達、これからリアルで用事があるから一旦落ちるわ」 と、次々にキースから繰り出される拷問に必死に耐えていると、見兼ねたルナが強引に会話を断ち切るファインプレーを披露する。 「あ、ああ!そうだった!ちょっと旅行のことで集まるんだったな!急がないと!」 リアルで用事があるというのは、ルナはともかくとして俺にとっては紛れもなく嘘だが、せっかくのルナのお情けだ。ここは便乗させてもらい、とっさに考えた口実を告げる。 「そうか、忙しいんだな。わかった、また明日か今日の夜」 「ああ、また後で」 すると、そんな下手な言い訳でもキースには通じたらしい。特に何を追及されるでもなく、キースは平然と俺達を送り出す。 「……もう、変なことするからだよ、ライト君」 「……俺が悪かったよ」 「どうするの?流れで約束しちゃったけど」 「どうにか断るよ……身から出た錆ってこのことを言うんだろうなぁ……」 店を出て、転移陣がある城へと続く道を二人で並走しながら、俺達はこれからのことについて攻略以上に脳を回転させながら話し合う。 その後、ドタドタと慌ただしく酒場を出た俺の元にアルマダから「人の心を奪った罪は重いぞ、ライちゃん」というメッセージが届いたのだが、それは別の話。
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