聖炉の女神

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そんな考えを証明するかのように、余裕のあるプレイヤー達が転んだ者達をどうにか運び出そうと試みているものの筋力パラメータが足りないのか、一人を運ぶのにも人によっては二人がかりでやっとだったりと、あまり捗らない様子。 ストレージ一杯にものを詰め込んだ欲張り者や、重量大型のアバターのプレイヤーに当たった者達からは、時折「お前重すぎだろ!?」やら、「もっと痩せろよデブ!!」やら、「仮想世界で無茶言うな!」などのやりとりが聞こえてくる。 「はいはい、喧嘩は後でな。一名様ご案内っと」 「え、ちょっ……おおぉぉぉぉ!!?」 いつもならまず見ることのない、ギルドの垣根を越えた口喧嘩に思わずもうちょっと見てみたいという気持ちもなくはなかったが、笑いを堪えながら舌戦を繰り広げているプレイヤー達の間に割って入り、運ばれているやたら恰幅のいい両手剣使いの上半身を守っている軽鎧の襟首を掴み、後ろに放り投げる。 放り投げた男ーー剣闘士所属の、名前は確かモルックだったかーーは、放物線を描いて十メートル程宙を飛んだところで「へぶっ!」と顔面から地面に着地して沈黙する。 動かないモルックに一瞬「殺っちゃったか?」と心配になったが、フォーカスした視界に表示される彼の簡易HPバーはまだ八割ほど色を残しており、内心でホッと胸を撫で下ろす。 「悪い、あとは頼んだ!」 「お、おう……」 呆然と飛んで行ったモルックの方を見つめる二人にそう言い残し、返ってくるなんとも言えない微妙な反応を聞き流しながら次の現場へと向かう。 次のターゲットの場所に向かう道すがら、俺とは別の場所で救助を行っているディエゴに目を向けてみると、彼は比較的小柄なプレイヤーを二人、首根っこを掴んで引きずり、戦場から離れた場所に投げ捨てていた。 その様子を見てもう少し丁寧に扱ってやれよと少し思ったりもしたが、俺も大概手荒い救助法をしていることに気がつき少し反省する。
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