突入

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「………はぁ」 なんだかんだ盛り沢山だった買い物を終えてからおよそ三時間半、現実世界ではもう陽も落ち暗闇が広がっているであろう時間帯。 俺は僅かに傾いた太陽らしき恒星の下で近くの建物に背を預け、一人手に持ったグラスを傾けながら溜息を吐いていた。 俺の周りが時間帯は夜なのに真昼間の様相を呈しているのは別に俺がこの三時間の間に日付変更線をまたぎロンドン辺りに移動した訳ではなく、単にここが現実とは異なった時間軸の仮想世界だからなのだが、日光に照らされて明るい周りとは対照的に俺は暗い日陰で一人悲しくグラスに入ったエールを傾けている。 俺の視線の先には、マザータウンの東広場という戸外にも関わらず大量に配置されたテーブルとその上に並べられた色とりどりの豪華な料理、そしてそれを取り囲みこのゲーム内でトップクラスの戦力を誇るプレイヤー達が談笑に華を咲かせていた。 「なんだなんだライト、一人寂しくぼっち飯か?お前ルナ以外に友達居ねえのか?」 「絡み酒は嫌われるぞ、ディエゴ」 目ざとく日陰の身に徹していた俺を発見して酒を飲んだ上司のごとく絡んできたディエゴに軽口を返し、グラスに残っていたエールを一気に煽る。 エールといっても仮想世界なので人体にアルコール分が摂取されることはなく、未成年でも安心して飲める全年齢対象仕様の物だが本物を再現したらしい苦みは如何ともしがたく僅かに顔を顰める。 「折角の親睦会だってのに連れねぇなぁ……ルナは一緒じゃねえのか?」 「ルナならほら……」 ディエゴの言葉に答えながら、広場の中心辺りを指差す。 それにつられてそちらに視線を向けたディエゴは「うへぇ……」とでも言いそうな表情を浮かべた。 「もしかしなくても……あの中か?」 「人気者は辛いってことだよ」 俺が指差した先には、わらわらと隙間無く並んだプレイヤー達が巨大な人垣を作っていて、いつも俺の隣に居てくれる相棒は今はおそらく人垣の中心部に立っていることだろう。
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