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I
「ねぇ、祇園君。最近学校中で噂になってることがあるんだけど、知ってる?」
放課後、部活動の掛け声やブラスバンドの演奏が聴こえてくる教室。
赤い光が斜めに差し込む窓際後ろから3番目の席。
そこに座る黒髪の女の子は、日誌を書きながらノールックで言葉を放ってきた。
「えっと、知らないな。全く知らない」
知っているはずもない。
何故なら、友達がこの冬杜を除いて、4名しかいないからである。
「それで、どんな噂?」
「祇園空詩が宇津ッ来あえぎと話している」
「僕は後輩と話しちゃいけないのかよッ!!」
そしてまたこのパターンか。
前にもあったぞ、〝琴吹ここちと話してる〟って噂がさ。
本当にどうなってんだよ、僕の鎖国感は。
スペイン、オランダ以外と実は貿易してました、みたいなことなの?
そしたら噂になっちゃうの?
泣きそうだよ、僕は。
「涙出てるよ祇園君」
泣いていた。残念ながら正直な僕だった。
「祇園君が女の子を両脇に抱え始めちゃったからね。そのせいだと思うよ?」
「冬杜、お前に言われたら僕の心は壊れてしまう。優しくして」
「そうだなぁ、優しさの役目は琴吹さんなんだから。そこらへんはしっかり線引きしなよ?彼女なんだから」
「……あいつの何処が優しさ担当なんだよ。毒リンゴみたいな奴だぞ。冬杜が僕に優しくしたところで何も問題はないだろ?」
「ふぅむ」
淀みなく動いていたシャーペンが止まり、少し考える素振り。
それを口元まで持ち上げて、そしてアイツは微笑んでこう言った。
「そうだね。問題どころか──なにもない」
ところで祇園君帰るんじゃなかった?と目の前のコイツは言う。
ちょっとした用事だから終わるまでいようかとも考えたけれど、ならば、お言葉甘えよう。
「じゃ、また明日」
お別れの挨拶を告げて、教室のドアを抜ける。
閉める。
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