1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな祇園君に大サービス」
所謂、男子高校生の僕は、魅惑的な蠱惑的なその言葉に緊張を有するけれど。
どうだろう。瞬間、襲ってきたのは琴吹自身ではなく音。それも大音量、耳元。
ドンッ。
そんな何もかも破壊するような勢いで琴吹の拳が僕の頬を掠めつつ背後のドアを叩いていた。
「……なあ、琴吹。これは壁ドンのつもりか?」
ほら、一応彼氏という立場にある僕だ、これくらいは察せるさ。
大丈夫。琴吹は通常運転だ。
「それ以外のなんだと言うのよ祇園君。しっかりと壁をドンッとしたじゃない」
……残念ながらこんな女の子である。
「それ文字通りの壁ドンだろ……。壁ドンってこんなにも甘くならないことってあるのかよ」
───ならどんななのよ。と振り抜いた拳を元鞘に収めることなく、身を寄せて、顔を迫ってきて、たぶんおでことおでこがくっつきそう。
視界に一杯の琴吹は真顔だ。
「本来の壁ドン知ってただろ琴吹。僕を苛めて何が楽しいんだ。sにも程があるぞ」
「なによ、賢人とは嬉しいことを祇園君の分際でよくいってくれるじゃない」
「〝saga〟のsじゃねえよ!!」
どうしようもなくボケたがりな琴吹さんだった。
次の瞬間、琴吹はババッと元の体制に戻る。
残念だ。
「それでそれで祇園君。冬杜さんはまだなのかしら?」
「ん?あぁ、2人で帰る約束してたのか。それならまだ時間かかるんじゃねえかな。いくら冬杜でも」
「そう。なら中で待っていることにするわ」
そう言って扉の前にいる僕を体当たりで突き飛ばす。
念のため言っておくと、当り負けたのではなく当り負けてあげた。
そこには山と谷の差が生じる。
キッと睨みつけてきたのは、チンピラのフリをしたからなのだろう。
いや、本当に嫌われてるわけじゃないよね?
大丈夫だよね?
最初のコメントを投稿しよう!