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プロローグ
その砦の名前を、第六の峠――
ある二国の運命の地と、後の歴史学者は銘打った。
「……ついに――ここまで来たのか」
第一から第六まで、一つの国を囲む六つの峠が存在している。
争いを続ける二つの国は、第四から第六までをその国境とする。
両国では共に僻地の第六の峠が、長く戦乱の中心地だった。
ザ――と。
闇空高くそびえる砦の麓、荒い目の砂を踏みしめる赤い人影。
「それじゃ……全て、終わらせにいこう」
冷え切った男の影を赤く染める、頭上に浮かぶ赤い何か。
男はその赤と共に、一夜にしてその地を焼き払う所存で。
男はこれまで、自らヒトを害したことはなかった。
辿ってきた道筋上、誰かを手にかけたことはあるが、それは男が望む結果ではなかった。
けれどこの日――戦いに生きる男は自ら、奪うことを決める。
その赤い宿命を呑み込んだ男の、初陣が第六峠だった。
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