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それでも女への想いについては、色々あって双子は自覚していた。逆にそれは気付けない鈍い女が、長い嘘の歪みだけを淡々と伝える。
「リーザは本当、ライザのことは聞き逃せないんだねぇ」
「……」
「エアのこともそうかな。数少ないリーザの居場所……リーザがいるって知ってる家族だけは、リーザは何をしたって、守りたいんじゃない?」
だから双子は、「子供攫い」などに手を貸すようになった。女はそう言って苦く笑いながら双子を見つめた。
しかしその「家族」は、蒼い獣から失われ続ける。
今まさに赤い獣として具現しゆく、孤高な飛竜の強過ぎる痛み……両親に加え、幼い頃からかばってくれた長老も失った悲痛が全て赤く染まる。
そして極めつけは、己と分身である双子の兄。飛竜が全ての嘘に堪えて、一番守ろうとしてきた存在が消えそうになっている気配。
それこそが、数日前のように、飛竜の最後の留め金を外した駄目押しだった。
「ライザ以上にリーザは、ヒトを傷付けたくはないヒトなのに……あたし達みたいなヒト殺しに手を貸した代償は、いつかリーザ自身に還ってくる」
駄目押しは兄の危機だが、飛竜をそもそもむしばんでいた痛みは別だ。幼い頃から姉貴分の人間を酷く傷付けられたこともあった。
その上、青白い月の下で出会った赤まみれの悲しい女を、失った痛みは大き過ぎた。
「リミットみたいに魔になっちゃうヒトって、素質があるの。暴走する程の心を、それまでは耐えれちゃう才能みたいなもの」
女が攫った子供の一人は、「魔縁」と呼ばれる生き物になった。それは本来の姿を失い、魂をすり減らし、烈しさに呑まれた化け物と言える。
「それでもリミットは、よく自分を制御できてる方だけどさ。リーザは違うと思うな……何せ堪えてること、多過ぎるんだもん」
――? と双子は、それと自身との関連をまるでわかっていなかった。
「ほら、全然気付いてない! 仮にも十八年隠れて生きるって、どんだけ辛いか――たった五年、隠れてたあたしが言うのにさ?」
女はただ辛そうに、誰かからフっと目を逸らし――
「……リーザが痛いとあたしも痛い……。リーザは初めて……あたしが『子供攫い』なこと、怒ってくれたヒトだから――」
そうして、命の次に大切な通行証まで貸した、女の心を口にした。
「あたしは……リーザになら、何をしても助けになりたい」
不意に赤面した誰かは……自身の負けだけを、衝動的に悟る。
「……オレは……」
月の下で切なげに潤む女の青い目に、蒼い己を忘れて告げる。
「オレは、ただ――……あんたが、ほしい」
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