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 そして、長く溜め続けた赤熱を解放した獣は、赤く変貌する。 「リー、ザ………」  獣の蒼を受け取った青年は、ようやくうっすらと眼を開けた。  そのまま現実を直視し、彼らの終わりが始まったことを知る。  川辺に現れ、慟哭の咆哮を上げた赤い飛竜。元の蒼い獣を見慣れていた同郷者達は、最早周囲を構わずに叫んだ。 「何やアレ!? 飛竜ってことは、リーザやんな!?」 「嘘、まさかリーザ、魔縁に!?」  そして次の瞬間、それが最早、蒼を失った魂無き獣であることを身をもって知る。 「やめてリーザ!! 私達よ、正気に戻って!!」 「リーザ殿、お気を確かに!! このままでは……!!」  幼馴染を悪友が、王女を騎士団長が抱えて空中に避難する。飛竜が川辺にいる者に突撃を始めたのだ。  おそらくは凍り付いた混血を目がけて、狙いも定められずに突っ込む飛竜に、交渉場を囲む両国の兵士が次々、跳ね飛ばされていく。 「……リーザ……」  眼を開けた青年は、そのただ赤い獣……魔性の紅に染まる手前の、まだ暴徒に留まる双子の弟を必死に見つめた。 「やめ、ろ――……リーザ……」  それはいっそ、紅く染まってしまった方が、魔として自衛ができただろう。頑強な体で飛び立ち、暴れ狂い始めた獣から、青年は全身に最後の蒼い力を受け取る。 「…………」  誰彼構わず対岸に突っ込む赤い獣に、国王が顔をきつく歪めていた。  ゆらりと、魂を留め続けた青年は、動くはずのない体で、全ての秩序に背を向けて立ち上がる。 「……何処にいるんだ、リーザ……」  対岸で、二国の兵から刃を向けられる赤い獣だけが、完全に彩を失った青年の眼に映る。 「自分から……誰かを、傷付けるのか――……」  そこには、青年が守りたかった誰かはいない。生粋の蒼い獣は魂を失った現実を、赤い鼓動を失った眼が視る。 ――そうしなきゃできないことだって、あるだろ。  生まれた二人を一人と偽った時から、それは決まっていた。  いつか長い嘘は本当になり、どちらかがどちらかを失う――  それを拒んだ蒼い獣は、自らが先に消えることを願ったのだと。
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