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「俺は無事だって……わかってたんだろ……?」  消えそうに拙い青年の声。まるで呼応するかのように、対岸で暴れ狂っていたはずの赤い獣が、ふっと青年の姿を捉えた。  心臓を掴んだまま立ち上がり、そのまま動けず獣を見つめ続けていた青年の前に、赤い獣が降り立ってくる。 「……――……」  おっせーよ、と。  青年を見下ろす灰色の目だけは、今までと同じ赤い獣に、青年はそんな声を聴いた気がした。  それは対岸の者達が駆け付けることもできない程、刹那の一瞬でありながら……青年にはとても長い時間に感じられた。 「何処行くつもりなんだ……オマエ……?」  その速さに追いつけないのは……そもそもわかってはいた。  心臓を潰された青年の抜け殻を、獣が失わずにいられる道はそれしかなかった。そうして結果だけを求め、最後の魔道を使った獣の赤い変貌。 「そんな……! やめて、リーザ!!」  立ち尽くして赤い獣を見上げる青年を、赤い獣は今まさに、大口を開けて喰らいつくための雄叫びを見せた。 「……!!」  ちっぽけに佇む青年の前に降り立った獣は、本気で青年を喰らわんとしている。双子の事情を少しでも知る者は、おそらく瞬時に理解していた。  飛竜になれず炎の血を持つ青年と、炎を継がなかった飛竜。  二人で一つのものを使う――それはこの国では、命の次に大事な通行証を始めとして、双子には当たり前のことだった。  だから飛竜は、青年の体が滅びる前に、同一化せんとしているのだと。 「己が双子を取り込む気か――……赤い獣よ」  たとえそれが、正気の沙汰ではなかったとしても。強く信頼した相手を、二人も獣に奪われることを、国王は拒否した。 「貴様がピア・ユークの連れ合いと言うなら……私がこの手で、彼女の下へと送ってやる」  国王は獣との約束を覚えている。赤い獣が全くそれを、忘れてしまっていたとしても。 ――あの人間は必ず、私が探し――……貴様らの元へ帰す努力をすると、ここで約束する。  自らもささやかな希みを永遠に失った日、そう約束していた国王は――最早躊躇うことはなく、化け物の国の王たる強大な力を赤い獣へ向ける。  これまでの獣の猛攻に、既に心の準備を整えていた物憂げな国王は……そこで己が決意を、一息に解放した。
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