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「ライザ! オマエがそれを止められないならそこをどけ!」
「――!?」
滅多に大きな声を出さない相手が、対岸まで届く程の剣幕で発した叫びに青年は硬直する。
「わからんのか、このままでは和平の儀は台無しとなるぞ!? それはその者が望んだ未来ではあるまい!!」
「――」
既に二国の兵士はかなり傷付いている。まだ交渉の調印も行われていない状態で、ここで赤い獣が暴走を続ければ、取り返しのつかない事態がすぐそこに迫っていた。
傷付き倒れる数多の者達の姿に、国王はただ叫んだ。
「オマエにできないなら私がする!! だからそこをどけ!!」
「トラスティ……!」
「どの道その者は死罪だ! ピア・ユークの通行証を持つと、自ら口にしたのだから!」
だから国王に、その双子を庇い切ることはそもそもできない。むしろそれを覚悟に、最後に言い残しただろう双子の思いを、的確に汲んだ国王は青年に現実を突き付けていた。
それはただひたすらに――切実な心を、双子に代わって叫ぶ男の厳しい声だった。
「オマエは咎人ではないのだ!! だからどけ!!!」
青年にかけられた嫌疑、全ての咎を、赤い獣は既に引き受けたのだ。
「ミリア・ユークのことを考えろ、オマエまで失えばあの少女はどうなる!? オマエ一人の感情で全てを不意にする気か!!」
「――……!」
自身と引き換えに、帰りを待つ者がいる青年に、未来を残したい。それが赤く変貌した獣の、最後の長い嘘。
「――ライザ! あんな奴の言うこと、きく必要あらへん!」
飛竜を押さえつけるため、悪友がこちらに降り立っていた。飛竜は全身を貫かれて弱りはしたが、翼をばたつかせて強く抵抗し、青年一人では止められなかった。
何匹かの怪鳥と共に、飛竜を取り押さえた悪友のおかげで、青年はようやくマトモな思考ができるようになったが、
「何としてもリーザは元に戻すんや!! 今はとにかく動きを止めて連れて帰る!!」
それは不可能だと、誰より青年自身が知っていた。
そこにもう、青年の弟はいない。その「心」は失われたと、青年の眼は現実を焼き直し続ける。
うわああと驚く悪友を、怒りに満ちた飛竜が、全ての怪鳥を悪友ごと振り飛ばした。先日に紅い目の男を殺しかけたように、そこには何の遠慮もなかった。
そうして同郷の者まで、容赦なく傷付ける赤い獣。
それが青年にとっては、最後の引き金とならざるを得なかった。
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