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――トラスティ……と。
その時青年は、不思議な程に、気持ちが静かで落ち着いていった。
蒼く冷え切った声で、対岸の国王へと、沈痛な無表情で語りかける。
「トラスティ……俺はアンタに……誰かに、誰も殺されたくはない……」
「――!?」
「殺される仲間を見殺しにするのは……俺はできない」
怪鳥から解放された飛竜は、まずは青年から喰おうと思い出したらしい。咆哮して青年を睨む赤い獣に、青年は俯いて対峙する。
青年は確かにそこで、赤い獣の内に、自らと同じ赤い光――
「じゃあ……トドメをさすのは、俺の役目か――……」
彩のない眼に赤く走った、最強の獣の呼び声を聴く。
「簡単なことだった……俺が、リーザになればいいんだ」
ここからそれができるのは、他ならぬ青年だけ。
飛竜と青年、どちらが本体であるべきかは、わかりきった答だった。
じわりと。
青年と双子を揺らし続けてきたはずの、赤い鼓動……心臓を潰された青年を生かす、新たな力の在処を知る。
「俺達は元々――……二人で一つの、飛竜なんだから」
それは青年が拒み続けた、獣としての本性だった。
この赤は命であり、また、永く燃え盛る憎悪。何かを愛せば愛すほど、裏腹に積もっていく命の鼓動。
生き物とはきっとそれ故に生まれ、そして滅ぶ。彼らの父が愛する人間を失い、自滅した時のように。
青年を喰らうために、まさに飛びかかる赤い獣。青年はただ、弟を小さくしてきた今までのように、獣の前に右手を掲げて、獣の憎悪の全てを迎え入れ……――
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