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「飛竜」とは、最強の獣であると、周りは口を揃えて言った。
――アニキもオレを使えば、強くなれるんじゃねーの?
頑強で赤く巨大な、炎を吐く獣を操り、変化もする化け物。
その血には炎が流れ、血を浴びた者を焼き尽くす。しかしそれに耐え得る者には、逆に強靭な躯体を与える獣でもある。
かつて両親はそれを迷った。弟の血を少しでも兄に与えれば、兄は強くなることができるのではないかと。
「初めからこうしていれば……オマエは消えなかったのかな」
双子の血を浴びた青年には、今や飛竜本体の喰い付きですら、通すことのない頑強な躯体が得られていた。
その可能性を知っていて、拒み続けたのは青年だ。だから双子は、ただ弟を傷付けたくないという、青年の甘さを責めていたのだ。
「でも……オマエは、俺の心臓になることを選んだんだ……」
得られた頑強さを以って、青年は自らを餌に、飛竜の懐に進んで入った。そうして飛竜の核たる心を、確実にその眼に捉え――
全力をまとわせた右手だけで、飛竜の胸を青年は貫いた。
何より大切だったものを、自ら貫くその感触。憎悪の鼓動が赤い右腕に全て遷されていく。
まるで、赤い獣ごと、その右腕に吸い込まれていくように……「力」の一つの形である、飛竜の姿が薄まっていく。右腕はそのまま震源となり、飛竜の血が心臓を固め、赤い右腕と共に再び鼓動を始める。
そうして、自らを失った赤い獣は最後に――
最強の獣の血を浴びた青年の内へ還るように。
彼らの長い嘘……存在しなかった者へと、戻ったのだった。
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