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一緒に行こうと言っておいて、その実王女は、子供を何処に連れていけばいいかなど思いついていなかった。身分上、あまり友達がおらず、貴重な出会いがただ嬉しかった。
それくらい適当なところのある王女に、堅苦しい子供は、不服げに黙りながらすっくと立ち上がった。
――……帰る。母さんの所に。
こんな幼い王女に、子供の正体が何か理解されているわけがない。失った役目だけを求める子供は、ひとまず母に言いつけられた仕事を思い出して、先程までの動揺していた自身を治めることができていた。
――まぁ。お母様の用事があるなら、勿論それをご優先下さいな。
子供には生まれた時から母しかいない。その母がまさか、地上を見張るために天上の鳥が隠れ憑いていたトウモロコシを食べてしまい、その後にみごもったことを、王女は知るわけもないが……。
――それならまた今度、一緒に役目を探しましょうね。
役目に縛られることで魔に堕ちないよう己を守る、純粋過ぎる天の使い。世話好きな王女は会う度に、次の約束という鎖でそれを守り続ける。
その祈りがたとえ、叶うはずはない夢であったとしても。
-了-
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