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「ねぇリミット、今日のご飯は美味しい? 今日はねぇ、いいお野菜が手に入ったの♪」
「…………」
黙々と家主の手料理に箸を進めながら、白い髪の鳥頭の青年は力強く頷く。
「何やねん、それきくの何度目やねんハーピア。リミットもな、一々全部に大真面目に頷かんでえーんやで?」
「だって貧乏舌のヴァルトと違って、リミットが食べてくれる時は本当に美味しいってことなんだもん。ヴァルトの手料理なんて見向きもしないじゃない、ねぇ?」
「それはおれのせいやない、全然違う要因混ざっとるから!」
よく食事を世話になりにくるまた従兄弟と、家主は今日も煩く喋る。気難しげな青年の前で実に騒がしい。
「あ、おかわり? 今日はねぇ、ご飯の水加減も、いつもより1ミリ気を使ってみたの!」
にこにこ嬉しそうな家主が、何も言わない青年から茶碗をひったくる。強気な善意は全く無邪気で、その信頼の強さだけが青年を地上に繫ぎとめる。
「……ありがとう。ハーピアの気持ち、いつも、嬉しい」
この家主にだけは、青年は遠慮なく透き通った笑顔を見せる。それでますます、家主のテンションは上がる一方なのだった。
「全く……本当、自分がない奴っちゃなー」
居候その二に近い、透明になれない男は今日も一人ごちるしかない。
-了-
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