21人が本棚に入れています
本棚に追加
⑦リーザとピア
「あたし達の父さんは、竜と言われる化け物だった」
ある人間の女の素性を、女の数少ない友人だった「千里眼」から、飛竜の息子はザイン山上の第一峠で話されていた。
奇しくも同じ話を、ザインとゾレンの境に当たる中腹の山小屋で、その双子の弟である青年と人間の女は交わしていた。
「竜って……あの、竜かよ?」
山小屋から少し離れた泉で、月の光の下、人間の女は身を守る鎧を外して沐浴をしている。薄い肌着は身につけたままだが、まるで心の鎧を外したように青年に笑いかける。
「うん、あの竜。リーザみたいなケダモノじゃなくて、自然と一つのあの竜だよ」
ケダモノってゆーな。と、獣寄りの竜――飛竜そのものである青年は、目のやり場に困り、そっぽを向きながら答える。近くの木に持たれて女から目を逸らしつつ、視界の端の、水の滴る女の姿に面白くなさそうにする。
だって、と女は、にへらと笑いながら言う。
「ライザなんてまだ、ぷっつん来たら暴走しちゃうぞーって自覚してそうなのにな」
青年が最も不服だったのは、話の内容にではない。
「……そんなケダモノの前で、無防備にしてんなよ、あんたは」
そうしたことを話しながら、全く青年を警戒せずに鎧まで外し、反応に困る緩い笑顔を見せる女が理解できない。そして――
「随分あんた……アニキのこと、よく見てんだな」
女の口から最近よく、青年の双子の名前が出ることが、何よりも気に食わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!