⑦リーザとピア

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「リーザ、下手したらケダモノになっちゃいそうなんだもの。気をつけた方がいいよ?」 「――は?」 「自分で気付いてないのが一番怖いよねぇ。リーザは基本冷静に見えて、ライザよりホントは冷静じゃなく見えるな、あたし」  人間の女は、曖昧な虫の知らせという形で、現状を的確に把握する直感の才能を持っていた。不服そうな青年が心配といった顔で、呆れたようにまた笑う。 「?」 「ほら、全然気付いてない! 仮にも十八年隠れて生きるって、どんだけ辛いか――たった五年、隠れてたあたしが言うのにさ?」  双子の兄を守るため、青年は生まれた時から存在を隠されて育った。しかしそんなことくらい、とっくに受け入れて生きていたつもりだった。  女はただ辛そうに、青年からフっと目を逸らし―― 「……リーザが辛いと、あたしも痛い。リーザは初めて……あたしが『子供攫い』なこと、怒ってくれたヒトだから――」  この場に来る前に、命の次に大切な通行証まで貸し出した、女の直向きな心をそこで口にした。 「あたしは……リーザになら、何をしても助けになりたい」  不意に赤面した青年は……自身の負けだけを、衝動的に悟る。 「……オレは……」  月の下で女の青い目が、切なげに潤む。赤く大きな鼓動を抱え、蒼い己を忘れて告げる。 「オレは、ただ――……あんたが、ほしい」 +++++
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