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マジメな顔で静かに女を見つめる青年に、女は何度か深く息を吸って、何を言うべきかを必死に考え込んでいるようだった。
「…………」
口を引き結んで俯き、憂いげな顔を続ける女。良い返事は期待できないのかと、青年も憂鬱になりかけた頃だった。
「あ……あのね、リーザ……」
「……?」
「何て言えばいいか……あたし、全然わからなくって……」
そこで女は本当に、これ以上言葉を続けられないと――
突然くしゃっと、両目に大粒の涙を滲ませながら顔を上げた。
「ホントならあたし……幸せ過ぎて、信じられない……」
両腕を胸元で強く握り締め、嗚咽混じりに、女は何とかそれだけ口にした。その時には少し離れた水際に後ずさっていた。
青年は不機嫌そうに黙ったまま、立ちすくむ女のすぐそばまで近付く。
俯く女も今度は逃げない。両肩を抱くように縮こまり、硬く震えている華奢な体。この寒空の下なら当然だろう。そのまま女の両腕ごと、冷たい体を包み込むようにそっと抱き締め――……偽りの余地などないと、全身を使って青年は示した。
……何で……? と。
無言の青年の腕の中で、女が尋ねる。これまで聞いたことのないような拙い声で、恐る恐る青年に問いかけている。
「リーザならいっぱい……いくらでもイイ人、いると思うよ……」
「……」
「わざわざあたしみたいなの……関わらなくたって……」
肩を震わせながら、女がぎゅっと青年の服を掴んだ。鳥が停まったかのような感触だった。
竜の血をひきながら、ただの人間である女。それは実際、こんなにも弱々しい存在なのだと、化け物の青年は生々しく感じ取る。
「……『子供攫い』だよ? どう考えても……先行き暗いよ」
竜人である弟を、女は家族を守るため軍に差し出した。そして弟を取り戻すために始めた国賊活動を続けている。それで弟を取り戻せることはなくても、後にはひけない状態なのだと青年も知っていた。
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