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 それだけ体を貫かれながら、獣は再び雄叫びを上げ、自身の邪魔をする対岸へ飛び立とうとした。 「……リーザ……!」  その体に咄嗟にしがみつき、青年はただ……。 「やめろリーザ!! お願いだやめてくれ、もう十分だ!!」  全く動かなかった体に、確かに渡っていく力の熱さに、青年はただ――泣き叫んだ。 「俺は無事だから正気に戻ってくれ! オマエの命はこれ以上いらない、俺はこれ以上、オマエから奪いたくない!!!」  魔杖たる棍を使えば、本来双子は、魔道を扱う際に詠唱など必要としなかった。なのに珍しく、真面目に詠唱した最後の魔道は、初めて使うものだったのだ。  同一化。心臓を失った片割れに対して、誰より近い双子だからできる禁術。己の心臓を二人で使うための「力」の共有――  命たる心を明け渡す、そう簡単には使用できない「双子」故の秘術だった。  だからこそ青年は、双子の記憶をかいま見ていた。  双子の今の姿は、元々危うかった魂が、禁術の代償についに自らを失ったこと。取り返せない現実を悟りながら、青年は呼びかける。 「俺はずっと、オマエから奪い続けてきたのに……!! まだ何も返せてないのに、いなくならないでくれ……!!!」  長い嘘の犠牲者はいつも、隠され続けてきた弟だった。  最早青年の制止も振り切り、飛び立とうとする赤い獣には、先日に暗い水蛇を喰い殺したような憎悪の鼓動しか残っていない。  その澱みは命がけで守ろうとした片割れにすら向くと、獣の憎悪を察していた国王は、ずっと対岸で顔を歪める。
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