いつもの金曜、午後5時半

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「……えぇと、あの……」 「謝らないでくださいよ」 「あ、はい……」  わたしに言動を制限された彼は、思わずその先の言葉を無くしてしまったようだ。  一瞬見上げた初瀬さんの顔は、申し訳なさそうな顔をしていたから。 「……知って、いらしたんですか」 「……知っていなかったと言えば、嘘になりますかね」 「……そうですか」  それから、長い沈黙。  わたしは、どうしていいかわからないままだった。 「……やっぱり、すみませんでした」  初瀬さんの声が、遠くから聞こえる気がした。 「ついこの前、はじめてお二人で来店されて。  そのときは……その、あまりそんな関係に見えないというか、なんか職場の方かなと思ったんですが……」 「そんなこと、聞きたくないですよ……」  そうわたしが言うと、彼はまた「すみません」と言った。  沈黙。  ふいにわたしは、目の前のヴァイオレットフィズを飲み干した。  そして、ボソリと彼に言う。 「初瀬さん、モスコミュール」
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