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「明日香さん……、もうやめましょう?」
「失恋した日ぐらい飲ませてくださいよ、初瀬さんのばかー!!」
「そんなこと言ったって……。
いくら明日香さんがお強くても、モスコミュールは女性がそんなそう何杯も飲むものじゃないですってば!」
「もとはと言えば初瀬さんが黙ってたからこんなことになったんですよぉー!
てか女性がとか、それ男女差別ですからねぇー!」
「いや、差別とかじゃなく……」
「つべこべ言わないで作ってくださいよ!」
わたしの言葉に困りがおで、それでもグラスを取り出した。
あぁ、初瀬さんを責めてもしょうがないのに。
全部、臆病なわたしのせいなのに。
時間は11時を回って久しい頃だった。今日は帰る気がしない。
ずっとここでくだを巻いていたかった。
「……どうぞ」
初瀬さんはそう言って、わたしの前にグラスを置いた。
わたしはグラスを見ずに飲む。
パイナップルの、爽やかな後味。
……あれ?
「初瀬さん、これモスコミュールじゃないじゃないですか!」
そんなわたしの抗議を、彼はすこし険しい顔で制した。
「ノンアルのシンデレラです。
もう、飲みすぎですよ。
時間も時間ですし、お帰りになるのがよろしいかと」
「12時だから帰れとおっしゃるんですか。
……あーわかりましたよ、帰りますよーっだ!
どーせ初瀬さんもあれでしょう、独り身だとかなんとか言っといて、なんだかんだかわいい彼女とかいて、その子のところに早く帰りたいからとかなんとかでわたしを追い出そうとしてるんですよねー!ふーんだ!」
「だからそんなこと……あぁ、もう。
とにかく、今日はもうやめときましょう。駅まで送りますから」
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