いつもの金曜、午後5時半

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 店には、もうわたし以外誰もいなかった。  マスターはもうすでに、モップを準備している。  わたしはしぶしぶ了解して立ち上がった…つもりだった。  とたんに世界が反転して、また座り込む。 「あぶな……ほら、飲みすぎです。さ、コート着て」  初瀬さんはそう言って、バーカウンターのこちら側にやってきた。  わたしはまだ眉間に皺をよせながら、その様子を他人事のように見つめていた。  モップを用意していたマスターが、思わず口を開く。 「あー、初瀬くん。  もうあがっていいから、着替えてきて明日香さんを送ってあげて。  それまで明日香さんのこと見ておくから」 「……ありがとうございます」 「待っててくださいね」。そう言って彼は足早に奥に消えていく。  その間、わたしは再び立ち上がった。  ……よし、今度は大丈夫そうだ。  そう思ってコートを着て、マスターの方を向いた。 「マスター、わたし大丈夫ですよ。ほら、普通に歩けます。  あ、これ代金です」  そう言って、カウンターにお金を置いた。  マスターは「でも」とか「だって」を言いたそうな顔をしていたが、わたしは構わず続けた。 「なんだかいろいろお世話になりました。  初瀬さんにいろいろ失礼なことを言ってしまったこと、謝っといてください。  ではでは、失礼します」  わたしは軽く会釈し、店の扉を開けた。  冬の夜はやっぱり肌寒くて、思わず肩をすくめる。  表の消えそうなネオン看板を横目に、わたしは若干ふわふわ歩き出した。
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