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私たちは駅についた。
次の電車まで間もなく、どうやら終電らしかった。
彼は、わざわざ改札をくぐって、ホームまで送ってくれたのだった。
「危ないところでしたね。
もうちょっと絡まれてたら、帰れないところでしたよ」
絡まれてた。
そのワードが、胸をしめつける。
ふと、また言葉が、溢れた。
「わたし……、好きだったんです、彼のこと」
「……そうですね」
「でも、あんな人だった。
……わたし、見る目がないんですかねぇ」
そう言ってわたしは自分を嘲るように笑ってうつむく。
駅のアナウンスが、電車の到着を予告する。
しばしの間、沈黙が続いた。
困らせてしまったかな、と思い顔をあげると、初瀬さんはすこしいじけたような顔をして、そっぽを向いたところだった。
……なんでだろう。そう思っていると、彼はふいに口を開く。
「まぁ、たしかに、明日香さんは男を見る目がないのかもしれませんねー」
そうして肯定されると、それはそれで若干もやもやする。
「なっ……悪かったですね、見る目がなくて」
すると彼は、ちょっとだけ顔をこっちに向ける。
少年のようにいじけた横顔が、いつもの初瀬さんではないように思えた。
「そうですよ。
逆にこんなにいい男が、近くにいるのに」
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