いつもの金曜、午後5時半

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 ドクン。心臓が大きく脈打つのがわかった。  いや、でも……。 「なに言ってるんですか。彼女に怒られますよ」  わたしは軽く笑いながら言った。  そんな言葉に、彼は勢いよく振り返る。  その顔は、なんだかほんのり赤く、でもなにかふっきれたような顔だった。 「それですよ、明日香さんは誤解してます。  ぼくは、好きな人がいるって言っただけで、恋人がいるって言った訳じゃない。  告白できなかったのは、それが叶わないこと、知ってたから……」  音をたてて、電車がやってくる。  その音にまぎれて、彼はポツリと、呟いた。 「……いい加減、気づいてくださいよ」  ……それは……、どういうことですか。  そう聞く前に、開いた電車のドアに、わたしは詰め込まれた。 「あ、あの……」 「はい、乗ってくださーい。早くしないと行っちゃいますよー。  ……あんな最低野郎のことをずっと考えるなんて、そんなのぼくが嫌です。  しばらく、ぼくのことで、頭がいっぱいになればいい」 「……え?」  無情にも、ドアが閉まる。  ガラスの向こうの初瀬さんの顔は真っ赤だけど、それをもはや隠そうなんて感じはなく、ただまっすぐに、わたしを見つめていた。  電車が動く。  夜のとばりで電車の窓に映る自分の顔は、とんでもなく間抜けな顔をしていて。  ……やりやがったな、初瀬直樹。
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