いつもの金曜、午後5時半

21/22
前へ
/22ページ
次へ
 そしてあれから一週間後。  金曜日、午後5時半。  我ながら単純だよなぁとか、のんきなことを思いながらも、わたしは意を決して、ドアの取っ手に手をかける。  ふと、店名を書いた看板が目についた。  そういえば、この名前、あるカクテルの名前に由来するって、聞いたような気がする。  壁にぶつかるハーベイさん。  そんな滑稽なネーミングと、ガリアーノのきいたバニラの甘い風味。  でも度数は高いから、ちょっと飲んだだけで酔ってしまう、いわゆるレディキラーの一種。  わたしは取っ手を押す。  ドアベルがカランと鳴って、中から聞きなれた声が聞こえた。 「いらっしゃ……あ、明日香さん。……いらっしゃいませ」  決まり悪そうな表情の彼。  でも、ちゃんと、わたしを見てくれている。 《Bar Harvey Wallbanger》  極上のレディキラーがいるこのお店のドアを、わたしは、明るい笑顔でくぐった。 完。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加