いつもの金曜、午後5時半

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 そうしてしばらく他愛ない話をしていると、店のドアベルがカランと鳴った。 「すみません、戻りましたー」  落ち着いた声が店内に響いた。  背丈は割と高め。  黒い髪、ちょっと癖ッ毛。  ゆったりとしたVネックセーターにチノパンというラフな格好に身を包んだ20代半ばくらいの彼は、わたしを見ると、優しく微笑んだ。 「あぁ、いらっしゃいませ、明日香さん」  そう言って、彼、初瀬直樹(はつせなおき)は、軽く会釈をした。 「さっきは私服で失礼しました。今日は仕事が早く終わったんですか?」  セーターからかっちりしたベストに着替えた彼は、にこやかな表情を浮かべてわたしに聞いた。  わたしは大きく首を縦に振る。 「そうなんですよ!先輩が早く終わりにしていいって。  ラッキーですよね。こんな早く初瀬さんに会えましたもん」 「もう……そんなこと言うと期待しちゃいますよ、ぼく」  そう言って、彼は笑った。  わたしも笑う。  こんな冗談が通じる相談相手がいるのって、すごいいいと思うんだ。  何がいいと聞かれ、わたしはバイオレットフィズを注文した。  頷いてグラスを選ぶ彼の背中に、わたしはふと呟いた。 「でも……やっぱ、好きなんですよねぇ」
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