いつもの金曜、午後5時半

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 初瀬さんは右手でシェイカーをくるりと回転させるように持ち上げた。  見慣れた彼の無駄のない動きを見ながら、わたしは呟く。 「…そういえば、初瀬さんは、彼女、いないんですか?」 「…え?それはまたいきなりですねぇ」  彼は困ったように最後のシェイキングを終えると、あらかじめ用意してあったグラスに中身を注いだ。  淡い紫がなんとも鮮やかだ。 「まぁ、なんというか…好きな人はいますけどね」  そういって彼はわたしにグラスを差し出す。  その美しいすみれ色に、一瞬で心を奪われる。  心地よい瞬間だ。  わたしはグラスに手を伸ばしながら、口を開いた。 「そうなんですか。告白したらいいのに。  初瀬さん優しいしイケメンだし、絶対成功しますよ」  そう言ってわたしはグラスを傾ける。 「おいしいです」  彼はにっこり笑いながら会釈をした。 「ありがとうございます。  でも、優しいとかイケメンは買い被りすぎですよ」 「またまた。結構初瀬さん目当てで来る女性客多いじゃないですか。  ……ま、わたしもなんですけどね」 「あ、またそうやってぼくをまどわせますね?」  そう言って彼はわざとすねるそぶりをする。  それにわたしが「すみません」と笑いながら言って。  こんな初瀬さんとの時間は、まさに至福の一時だ。  そこで、ドアがカランと音を立てて開いた。
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