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反射的に、初瀬さんとマスターが「いらっしゃいませ」と声を重ねる。
その先にいたのは。
「マスター、左奥の席を2つ、いいですか」
見慣れているのに、はじめて聞く声。
左隅のカレだった。
……でも、2つ?
マスターはどうぞと、上着を預かる。
カレがマスターの方向に体をずらすと、それまで彼に隠れて見えなかった、小柄の女性が現れた。
カレは、彼女の上着を預かって、それもマスターに渡した。
……え?
わたしはふと、初瀬さんを見た。
彼は口を少し開けて、その様子をただただ見ているところだった。
……初瀬さん、なんか言ってくださいよ。
そんなわたしの後ろを、二人が、腕を組みながら通りすぎる。
「恥ずかしいからやめろよ」「いいじゃん減るもんじゃないし」。
そんな会話が耳を通り抜けた。
わたしは、とうとう言葉も出ないままうつむいた。
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