21 夢の続き

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「どうしたの?」と、春香が顔を覗き込む。 無意識のうちに、にやけていた顔を隠すけれど、春香には見破られていたようだ。 「懐かしい思い出に浸っちゃったの?」 「そんなことないわよ」 「もしかして、初めてキスした日の思い出の写真だったりして?」 あまりに鋭い発言に、驚いてしまう。 「そうなんでしょう。この日、船の上でチューなんかしちゃったんでしょう? だってほら、藤木さん、いやらしい顔してるもの」 「そんなわけないだろ」と、藤木さんが言い返す。 いやらしい顔をしているとは思わない。 でも、こうして見ると、始まりの予感のようなものが写っている気がする。 まだ、その先に起こることを予想すらできなかったあの頃。 私はただ純粋に、藤木さんのことを好きになりかけていた。 一緒にいるだけで、笑っていられた。
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