東陸一《あずまりいち》

89/107
前へ
/356ページ
次へ
渋谷の胸倉をまた、つかんだ。引き寄せるといい匂いがした。 渋谷はそんな俺にやっぱりひるまずに、胸倉をつかまれたまま、笑ってこう言った。 「いくら私だって、死んだ人の事をこんな風に言うのは気が引けるのに、東君はやりたい放題だね?」 渋谷、今、なんて言った? 思わず力が抜けた。渋谷は声をあげて笑った。 「やっぱり、園美さんは、ちっとも元気じゃないのね?」 エレベーターは、一階に着いた、一階で待っていた人の一人が「下りないんですか?」と俺たちに尋ねて、初めて、俺は渋谷に嵌められたのかもしれないと思った。 .
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

736人が本棚に入れています
本棚に追加