南条拓也《なんじょうたくや》

3/54

731人が本棚に入れています
本棚に追加
/356ページ
◇◇◇ 爪を噛み始めた頃の事は覚えていないけど、小さい頃の酷い暮らしだけは胸に焼き付けている。 築40年だか50年だかの、ボロアパート。部屋の中はいつもぐちゃぐちゃだった。 「あはは。たっくん、こんなとこいた。いつのまにかくれんぼしてたの?しぃ、見つけられなかった」 俺は決まって押入れの下の段にいつもいるのに、しぃちゃんはいつも俺を見つけることができなかった。 「しぃちゃん、おなかすいた」 「だよね。こっちでなんかたべよう」 しぃちゃんは部屋の片付けができない。 冷蔵庫に何が入っているのか分からなくて、食べ物や飲み物をしょっちゅうくさらせる。 買い物も計算が上手くできなくて時々つらい。 施設で育ったことを時々話す。 16歳で父親の分からない子を産んだ。 そう。「しぃちゃん」は俺の母親だ。 .
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

731人が本棚に入れています
本棚に追加