南条拓也《なんじょうたくや》

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渋谷はしいちゃんを全裸にすると、どこかに電話をかけた。おれは、冷たい風呂の床に置かれたしいちゃんに、バスタオルをかけた。その時になって、初めて、涙が出た。 どうしたらよかったんだ……。 こんなことをしたかったわけじゃない。俺は、自分が幸せになりたかっただけじゃない。しいちゃんを幸せにしたかった。 だれにも馬鹿にされることのない。誰かに守られた女の人にしたかった。売春なんて、絶対してほしくなかった。 しいちゃん……。ママ。お母さん。静香さん……。 「たっくん、もうすぐ、作業することになるから、お風呂場から、離れて」 「何を……」 「たっくんにはたぶんできないことをするから」 ぼんやりしているうちに、40代くらいの男女が、玄関に立っていた。 .
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