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「うるせー。元はと言えばお前が悪いんだ。椿ヶ丘なんか受験して。俺の事ばかにしてるんだろ?」
言ってる意味が分からない。ラリっているのかもしれない。
「馬鹿になんかしてない」
「してるだろうが。お前なんか、おとなしくやられてりゃいいんだよ」
本家のおばさんが笑っているのを、私は見たことがない。夜、本家を通るとおばさんの悲鳴が聞こえてくる事があるらしい。おじさんはいつもニヤニヤしていて、気味が悪かった。誰にだって事情があることくらいは分かる。でも。その事情の犠牲に、私がならなきゃいけない義務はないはずだ。
ママが婿養子の話を、本家の三男の話をするたび、私の背筋が寒くなったのは、将来自分が本家のおばさんみたいに、生きながら死んでいるような大人になってしまう予感のせいかもしれない。
ママ。
貴女が結婚するといいって言った男の子は、貴女のせいでノーブラになった、私の胸を鷲掴みにして、私の自尊心を粉々にするような男なんだよ。
私のこと、人間だと思ってないよ。ううん、彼自身たぶん自分の事、人間と思ってないよ。
むき出しになった胸や、太ももに、冷たい空気が触れた。
それからすぐに発狂しそうな痛みと恐怖が訪れた。
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