東陸一《あずまりいち》

2/107
前へ
/356ページ
次へ
この町のどこにいても、小高い場所に行けば、四方八方、稜線が望める。 子どもの頃、どこに行ってもその稜線を眺めた。 稜線が俺を、東の家を守っていると言ったのは、ばあちゃんだ。 何にも分からず、覚えるつもりも全くないのに、ばあちゃんに山の名前を聞いた。 ばあちゃんは、小さかった俺と姉ちゃんにどこからどこまでが、東の家の敷地かを、いつも得意げに言っていた。 この町のどこが、一番地価が高いか。とか、どの商売を東の誰が始めたかとか、姉ちゃんと俺は何をするだろうとかしないだろうとか。 物心つくころには、跡継ぎだってことは染み付いていたから、ばあちゃんの刷り込みは大したもんだと思う。 .
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

739人が本棚に入れています
本棚に追加