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旧家だ。とか、先祖代々の土地が。とか、近所の大人のほとんどが、そういうことを重んじていました。
祖父母もそうです。
たとえ広大であろうとも、実際はそんな資産は、何の役にも立たない事に目を背けて生きているような人たちでした。
重苦しい日本家屋は、しょっちゅう、誰だか分からないような人の「法事」が行われていて、その度に僕は納戸に閉じ込められました。
母の法事の日もありました。
僕という存在のせいで、母も祖父母にとっては、殺される数ヶ月前から厄介者ではあったようですが、それでも一人娘が死んだという事で、祖父母にとっては複雑な思いが巡るようでした。
母の写真で唯一、僕が自由に見る事ができるのが、仏間の壁にずらりと並んでいる、最近のご先祖様の1番末座に据えられた、黒い縁取りのある、1枚です。
微笑みさえない、味気ない表情の母は、母と呼ぶには、あまりにも、あどけない様子です。
写真の母の襟には校章が付いています。
そう、この椿ヶ丘学園高校の椿の葉の校章です。恐らくあの写真は、学校の集合写真から引き伸ばしてつくられたものなのでしょう。
輪郭がぼやけているのも納得です。
僕が進学をこの椿ヶ丘学園高校に決めたのは、そんな理由からでした。
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