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お気に入りだったオレンジ色の車まで、取り上げられた、ねーちゃんの楽しみと言ったら、ずっと習っていた生け花と、大正時代に町で一番だと言われた庭の池を眺めることだった。それが俺にはたまらなかった。
「ねーちゃん?」
「なあに、りーちゃん」
「いいのかよ。父さんの部下の小西と結婚しても。10歳も年上だし、ちょいデブとか、ありえねーだろ」
「小西さんは、いい人だったよ」
「いい人だからって……。なあ、ねーちゃんは好きな人がいるんだろ? そいつ、何してんの? ねーちゃんが今どうしてるかとか、そいつ、知らないの?」
ねーちゃんは下を向いて、鯉に餌をやった。
700万むしり、自分の自由も奪い、気の向くはずもない結婚まで、させてしまう男って、どんなやつだよ。
そんな男のことを、ねーちゃんがこうして庇っているのが、辛かった。
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