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渋谷さんも、僕に目の色を変えてはいましたが、それはほかの人間とは違う色合いでした。
好奇心と侮蔑と疑惑と困惑。
大体これが複雑に入り混じった色合いになる事がほとんどですが、渋谷さんの場合は小さな子どものそれと同じで、好奇心一色でした。
「北山君はもう少し、自分から、他の人となじむ努力をしたほうがいいんじゃない?」
「人間関係に向かって、努力をする意味も分からないし、その努力が報われない確率の方が高い事を経験上知っているからね」
「ふうん」
この郷土資料研究会に入ったばかりの頃、渋谷さんとした会話です。
椿が丘に入学しても、部活や同好会には一切入らないつもりでしたが、同好会を作るのに人数が足りないので、名前だけでもと言われて入りました。
同好会を作るには、少なくとも5名は必要だということでした。
『郷土資料研究会』
入会届を差し出された時、渋谷さんの愛らしい容貌からは考え難いカビ臭い名前にぎょっとしました。
「いったい、どんな活動内容?」
僕がそう尋ねると、渋谷さんは長い髪を耳にかけながら、クスクス笑って、こういいました。
「私、自分のヴンダーカンマーを作りたいのよ」
「え?」
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