東陸一《あずまりいち》

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それからの、一週間のことを、俺はよく覚えていない。 ある朝、母さんが、俺をベッドから引き剥がして、こう言ったんだ。 「陸一、園美ちゃんは、駆け落ちしたから」 ぼんやりした、柔らかな膜の中にいるような気分は、母さんの耳を疑う発言で、破裂した風船みたいに、弾け飛んだ。 「何、言ってるんだよ。ねーちゃんは死んだんだろ? 俺の目の前で、死んだんだよ」 「いいえ。陸一、園美ちゃんは悪い男と、駆け落ちしたのよ」 「は?」 「陸一、いい加減に、部屋に閉じこもるのはやめなさい。拗ねても、園美ちゃんは帰ってこないわ」 「か、母さん?」 「東の家から、犯罪者をだせるはずがないでしょう」 「は、何言ってるんだよ! まさか、俺がねーちゃんを殺したっていいたいのかよ!」 .
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