東陸一《あずまりいち》

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そうする方が、あれこれ考えるよりも、ずっと簡単だった。 母さんが右を向け。と言えば右を向き、父さんのためにも『駆け落ちをしたねーちゃん』の話はしない。 何もかも、母さんの言うとおりにする。 血まみれのねーちゃんの亡骸が、どこに消えたのか考えるよりもずっと楽だった。 俺がねーちゃんを殺してない。と言い切れない、脇差しを抜いた時の感触を思い出すよりずっと楽だった。 このままでいいのかもしれない。 そんな風に思い始めた頃、椿ヶ丘で渋谷唯香に声をかけられたんだ。 .
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