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「ねーちゃんは……元気だ」
「そう? じゃあ、陸一くんには連絡してるんだ。噂は聞いてたけど、園美さんが家を出るなんて変よね」
元気だ。と言ってしまった罪悪感で冷や汗がでた。
そして渋谷唯香が言っている噂がいつのものなのか、何処まで何を知っているのかが分からなくて、何をどこまで答えていいのかわからなかった。
俺が何も答えずにいると、渋谷は笑って言った。
「園美さんが駆け落ち。なんてするはずないものね」
「それって、どういう……」
「そうだ、私、同好会を作るんだけど、陸一くんもどう? ってサッカー部に入るんだよね。掛け持ちでもいいから名前だけでもお願いできないかな?」
渋谷は俺に郷土資料研究会の入会届けを渡した。
「私、一組だから。これ書けたら持って来てもらえるかな」
「え? ああ。うん」
「ありがとう。またね」
ヒラヒラと手を振り、小走りで去った渋谷の方を俺はしばらく眺めていた。あいつは、ねーちゃんの何か大事なことを知っている。
それだけを理由に、どう考えても強引な勧誘を受けて郷土資料研究会に入った。
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