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「そんなに驚かないで。冗談よ。ほら、この町の伝承とか、歴史的建造物とかについて、調査したり、研究したりするのよ。北山君だって、きっと興味あると思うよ?」
「僕は……。どうかな。正直微妙だね」
「城跡の近くにある、ふしぎ博物館。北山君あれになら、間違いなく興味あるでしょ?」
『城の里ふしぎ博物館』それがあのヴンダーカンマーの正式名称なのは、みなさんももちろんご存じですよね? 渋谷さんが何を言おうとしているのか思い当った僕は、この時かなりムッとした表情をかくせなかったはずです。
「もしかして、怒ってる?」
「怒らないでいられる方が、間違いなく難しいね。なんだ。渋谷さんは、あの東京から来たオカルト研究会の連中と変わらない人種ってこと?」
渋谷さんはコロコロと笑いました。なんだか怒っているのが馬鹿らしくなりました。
「もっと、酷いかもしれない。でもね、私はあんなに不躾じゃないはず」
僕は怒っていたはずでした。でも結局、渋谷さんに勧められるままに、郷土資料研究会の入会届に名前を書きました。
渋谷さんには紙を差し出す前から、僕が入会することが分かっていたはずです。
僕の周囲には近しい親しめる大人はおろか、友人もいたことはありませんでした。
人間関係に背を向けて生きていくしかなかった僕にとって、継続的に建設的な、あるいは建設的ではない会話ができる相手がいるという事が、刺激的であったことを彼女は決して見逃してはいなかったと思うからです。
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