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わずかに灰の空が明るんで、朝が来たということをかろうじて伝えてくる。
一晩寝ても変わることのない荒廃した土地に僕、アイン・クロアーセは肩を落として見せた。
黒の髪が僕の視線にかかる。
そろそろ髪を切らなくちゃなーと思いながら、同時に僕のセルリアンの瞳が写す世界がその色で見えないかな、なんて考えてひどく落ち込んだ。
物語で出てくるような空は青く、大地には緑が生い茂り――
僕らが知る緑と青はひどく淀んだ色だ。そりゃそうだろと。
鉄を、鉱石を打って作られた色はどこか別の色が混ざって淀んだ色になる。
赤や紫は綺麗な色を示し、黄金色も混ざり合ったところでそれ自体が模様となり鮮やかになる。
だけど、緑と青だけはダメだった。
だから僕らはそれを取り戻すために今日も鉄を打つ。
「よぉ、アイン!今日も鉱石取ってきてやったぜ?」
そうしていつものように鍛冶場に行こうとしていた僕の背中を、これまたいつものようにバンと叩いて肩に腕を絡ませてきた少年が。
「ノエル、さすがに毎日やられてくると慣れてくるけどびっくりすることには変わりないし、痛いことにも変わりないってこと、いつになったら覚えてくれるんだい?」
「そりゃ、お前が青と緑取り戻して、俺が鉱石取りに行かずに済むようになったら、だろ?」
彼の名前はノエル・ハクメール。僕とは対照的に白の髪と黒の瞳が特徴の少年だ。黙っていれば顔はよく、しっかりした服装を選べば色が付く。まぁ、物語的に言えばイケメン、とかいう人種なのだろう。
彼は毎日のように鉱石が取れる洞窟に潜っては、いろいろな鉱石を取ってきて僕にそれを鍛えさせる。
別に僕がここで一番の鍛冶師だからってわけじゃない。というか、僕より腕の立つ鍛冶師はたくさんいる。下から数えたほうが早い僕に任せているのが不思議でならないくらいだ。
それでも何で僕に打たせるのか、それを聞いてみたことがあった。
その言葉に彼は一言おもしろそうに
「お前の瞳って青いだろ?ならその石の色も同じ色になるんじゃないかなーってな」
とか。
僕はぜんぜん面白くない。
おかげさまでやめたいと思っていた鍛冶師の仕事はやめれなくなるし、毎日早朝に起こされるし、こうして毎日背中に痛みを覚えるしっぺを食らう羽目になるし、毎日あの顔を真正面に見なくちゃいけなくなる。
ホント萎える。
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