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「もう秋だというのに、最近の気候は夏が長くて困りますね」
梶本さんと純弥さんが適当に談笑しながら、予約していた来客室へと入っていく。その後ろをついて歩く私は、今回は花崎さんの姿がなくて良かったと感じつつ、梶本さんが言っていた彼の『裏』というものの片鱗がないかと観察するように眺めた。
「早速ですが、共同開発の件はいかがでしょうか」
「すみません、社内で話し合っているのですが、なかなかすぐに良いお返事をできるような流れにはなっておりません」
「何かこちらに不手際がございましたか?」
「いえ、MORITANIさんに限ってそのようなことは」
ない、と言い切ることなく含ませた返事で梶本さんが営業用の笑顔を浮かべた。彼も私と同じように純弥さんを観察しているのだ。事前の打合せ通りに進めば、彼が回答期限を早めてきた場合にその理由を問う予定になっている。もちろん、肝心なところは梶本さんにお願いしているけれど、彼との過去がある以上、不要な弱みを出されたくはない。
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