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あれから高町さんは外出し、風奈とやらは自室に逃げるように退散していったので俺は自分の荷物が運ばれてる部屋に行く。これから俺が過ごす部屋だ。風奈とやらの部屋の隣の部屋で、窓からは街を一望できる……と思いきや隣の家によって景色は遮られていた。見える光景は開いた窓から見える部屋だけだ。大きなくまさんが見える。
仕方ないのでダンボールから荷物を出して部屋に置く作業を始める。大型のものはあまり持ってきていないので腰への負担は小さくて助かる。
2時間弱掛けて荷物を出し終えた。やることが無くなった俺は低反発のベッドに仰向けで倒れこむ。ゆっくりと体が沈んでゆく不思議な心地よさを感じながら、何をしようか考える。
ふと、視線を扉の近くに移したら風奈とやらがコッソリとこちらを覗いているのが見えた。
「……」
「……なんだよ」
「ッ!?」ダダダダッ!
風奈とやらは声を掛けられた瞬間踵を返して全力で自分の部屋があるであろう方向へ走っていった。俺は立ち上がり、足音とか特に気にせず奴の部屋に接近し、何の躊躇もなく扉を開ける。
「……お前、さっきから何がしたいんだよ」
「ひゃっ!」
風奈とやらは短い悲鳴を上げて布団をかぶる。俺はズカズカと侵入し布団を思いっきり奪う。
「人の話を聞く時は、人の顔面を見なさーい」
「ひっ!」
彼女は体をビクッと震わせ両手で頭を抱える。雷に怯える小さな子供のようだ。
「……」
俺はポッケに手を突っ込み、中にあった飴を取り出し風奈とやらの足元に放り込む。風奈とやらはそれを見てその後俺の顔を見て、俺が何もしないのを確認して警戒を解いて飴を取る。
「やるよ、それ。だから会話に付き合え」
「……うん」
彼女が飴を口に運ぶのを確認してから口を開く。
「お前コミュ症なのな。でも流石にちょっと異常だと思うぞ、その警戒心」
「……」
彼女は何も言わない。ただ下を向き、僅かに体を振るせながら俺の話に耳を傾ける。
「高町風奈。母親とごっちゃになるから風奈でいいか?」
「……うん」
「了解。これからよろしくな、高町」
「んっ!?」
風奈はバッと顔を上げ俺の顔を見る。しかし言葉は発せられない。
「ツッコめよ。リアクション芸でボケを返されても困るんだが」
「……変な人」
風奈に少しだけウケたようで、少しだけ笑った後で恥ずかしそうに顔を下げてそう言った。
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