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ギーコ、ギーコ……。
ペダルを踏む度に鈍い音が鳴る。俺は、俺の背後にて服の裾を掴んで乗っている風奈に尋ねる。
「なぁ。このチャリボロくさくね? なんか全然前進しねーんだけど。遅刻するべ?」
「……私が重いって事かな」
「いやちげーよどんな訳し方してんだ。言葉のままに認識してくれよ」
「……私が使う分には別に不自由ない自転車だった」
「ギアが泣き叫んでんぞ。聞こえるだろう、悲痛な叫びが」
ギーコ、ギーコ。速度を緩めて金属音の鳴る間隔を少しだけ延ばして聞かせる。
「の、乗れれば問題ない……じゃん」
「でもこれじゃ、周囲の視線を集めるぞ。てか現に集めてるぞ。コミュ症的にそれはどうなんだよ」
「うぅ……これまでイヤホンで耳塞いで音楽聴きながら登校してたから気にしてなかったのに……。い、今そんな事言われると恥ずかしいよ……」
「オマケに男女でニケツだからな。余計集めるだろーよ」
「や、やめてよ……」
風奈は俺の背中に頬を押し当てているようだ。そんな事したら余計視線を集めるだろうに。
俺は、日曜に雫叔母さんから教えてもらった経路の通りに学校を目指す。現在時刻は8時ジャスト。ホームルーム開始は40分からという事なので遅刻はないだろう。
もっとも、俺は転入生だから多少遅刻した所で問題は全く無いのだが。
背中越しに伝わる風奈の体温を心地良く感じながら漕いでいたら校門が見えてきた。どうやら新しく通う高校に到着したらしい。流石に学校付近でニケツしてると注意されそうだから風奈に降りるよう伝える。
「てか、転入とかって初日はどうしたらいいんだ?」
歩きながら風奈に問い掛ける。風奈は小さな声で返答する。
「……多分、職員室によれば扉の前に先生がいると思う」
「だよな、俺もそう思う。てか、お前野外だと最早亡霊みたいなテンションになるんだな」
「よ、余計なお世話……」
「家にいる時はまだ、呪怨に出てきそうな勢いあったのに」
「呪怨!?」
風奈は素っ頓狂な声を上げる。同時に周囲の生徒が何名かこちらを見たが、すぐに視線を元に戻した。風奈は恥ずかしそうに俺の腹に顔を埋める。耳が真っ赤だ。
「まったく、可愛い奴め」
「……そうやって意地悪する人、嫌い」
「腹に顔を埋めたまま喋るな。くすぐったいから」
「ばーかばーか」
風奈はそう言って校舎へと走り去って行った。
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