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「助けて…」と呟く声に差し伸べてくれた大きな手。
今でも忘れない。
今じゃすっかり大きくなった自分の掌を見つめながら、休憩がてら奴らの監視下の元にある広場で寝っころがり思いに耽ることにした。
どうやら今日は気分がいいらしい。
それ程、ここでの生活に慣れてしまっているのだ。嫌な慣れだ。
あの頃からは考えもつかない。
その証拠にあの頃は、差し伸ばしてくれた手を直ぐに掴むのとは出来なかった。
唯一信用していた親に裏切られた子供の警戒心はそうそう解けやしない。
それでも、彼は俺の手を取って…笑った…俺のことを「テイ」って…呼んで…
「おい、テイ…また泣いてるのか?」
「…兄貴」
兄貴と呼んだ青年は黄色の瞳で横になったいる俺を見下ろしている。
この人こそが絶望で堕ちかけていた俺に生き抜く術や希望をくれた人だ。
血は繋がっていないが家族と呼べる存在であり、俺の全ては兄貴と言っても過言ではない程だ。
身体を起こすと兄貴は俺の隣に座り頭を撫でてくる。
「泣いてない…ガキのころと一緒にすんな。」
「我慢すんな。」
「…うん、でも大丈夫。」
いつまで経っても兄貴は俺をガキ扱いする。
だが、それで兄貴は救われているからこの関係は変わらないでいる。
兄貴は血の繋がった本当の弟を亡くしているから、俺に頼られることで…俺が弟でいることに安心感を得ているんだ。
弟の俺が笑えば兄貴も笑顔になってくれる。
非力な弟の俺が出来る兄貴を救える唯一の術だった。
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