第1章

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少しずつ暖かくなってきたこの時期の空には白い綿雲が浮かび、春の訪れを告げている。 「なぁ、テイは桜を見たことあるか?」 「ないと思う。聞いたことはあるけど。」 幼い時にここにぶち込まれたのだ。一般的なことは知らないことの方が多い。でも、聞いたことはある。 『桜は儚い』 やっと咲いたとしても咲き誇る時間は短く散ってしまうから、と。 だけど、桜が咲くときっと兄貴は笑顔になる。 兄貴が笑ってくれるのなら俺もきっと笑顔になるはずだ。 「ここを出たら、桜を見せてやるよ。」 「…あぁ、近いうちに叶うといいな。」 そんなことはあり得ないことは知っている。 ここから抜け出すことなど出来はしないのだから。 だけど、希望を告げてしまった。そうなって欲しいから…だが、そう言ったのがいけなかった。 その日の夜。 俺は薄暗い荒野の真ん中で独り、泣いていた。
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