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「飽きた」
彼女はそう呟いた。
「新しい、そう、新しい知識が欲しい」
薄暗い部屋の中央に机と椅子が、それらを守るかのようにところ狭しと積まれ、並べられた書物のなかに彼女はいた。
先ほどまで読んでいた書物を床に広がっているアメジスト色の髪で持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。
拘束衣によって自由を奪われ、目隠しにより光を奪われた彼女は、新たな知識を求めて部屋の中を彷徨い始めた。
髪の毛を巧みに使い、自分の周囲の本をチェックしながら進んでいく姿は、さながら餌を求める化け物のようだった。
いや、化け物のようではなく、彼女は化け物そのものであった。
人は何をもって化け物と決めつけているかは全く分からないが、彼女という概念は誰であろうと、化け物という概念で等式を結ぶだろう。
人の範疇を超えている彼女は、新たな知識をずっと得るために自らを、何をしても、何をしなくても死なずに生きていくことができるように改造していた。
そして極め付けはその特異な体質である。
先ほどから手の代わりに使われている髪は、拘束されてから自身を改造したものであって、特異な体質ではない、むしろこの世界で髪の毛が動くこと自体はそこまで珍しいことではない。
だったら何が特異な体質なのか。
それは【超能力】である。
とある偉人が言った。
『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』と。
彼女の棲む世界は科学技術が異常なまでに発達している世界ではあるが、魔法というものは全て科学技術で証明されており、存在していないことになっている。
ゆえに彼女の存在はイレギュラーであり、世界そのものから嫌われているのだ。
この狭い部屋に閉じ込められてから何百年が経っただろうか。
彼女の唯一で無二の行動理念である知識欲のみが彼女を拘束する手段でもあり、殺す手段でもある。
「...ここにはない、もうこの世界には」
しばらく部屋を歩くと、彼女の髪は感情と連動しているのだろうか、蜘蛛の巣のように張られた髪が地面に落ちた。
ぺたんと自身も地面に座り込む。
「悲しいな、悲しいな」
皮の目隠しの隙間から涙が零れた。
「そうだ、歌おう。彼がよく歌っていた歌を」
ゆっくりと歌い始めた。
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