第1章

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「ダメだこりゃぁーーーー!!!!」 グシャッと原稿用紙を握りつぶして、私、湯川梓は思いっきり叫びそうなりながらぐっと我慢する。私の住むアパートは壁が薄いため音が隣に響くのだ。あまり騒ぎすぎると大家に小言を言われるのでなるべく騒がないようにしなければと両腕をブンブン振り回しながら発散していく。徹夜で寝不足のまぶたをパチパチしながらグシャッと握りつぶした原稿用紙をもう一度、広げる。 高校生からの夢、小説家デビューを目指すこと数年、会社に勤めながら合間をぬって小説を書いているけれど、今のところデビューの予定はない、にわか作家だ。心のどこかで『趣味』と割り切っているけれど、できることなら大勢の人に読んでもらいたいと欲があるのもまた事実だったが、自分の書いた小説を読み返しておもいっきり唸った。 今回のテーマは『恋愛』である。単純なテーマと甘くみていたけれど、これがなかなか奥深いというか、なんでイケメン男子と、鈍感主人公の学園、恋愛物語を書いたつもりなのに、こんなキャラクターができてしまうんだろう? こんなのは恋愛らしくない、というか、不釣り合いでしかない。ギャップ萌えというのならわかりやすいけれど、なんか、この主人公、ウザいのだ。作者の私から見てもそうなのだから、読者もそう思うに違いない。 年頃の女の子が笑点はない、漫画やお菓子はよくても老人が見てそうな笑点はない、こたつに足を突っ込んでみかんでも食べながら相撲を見ながら、はっけよーいとか言っていそうだ。あんなおっさん同士がぶつかり合うスポーツに熱狂する現役女子高生なんてイメージとしては最悪だろう。私だったらどん引きする。 じゃあ、もっと別のキャラクターにすればいいと思うけれど、恋愛小説のキャラクターというやつがよくつかめていない。基本的にグロは禁止、相手を殺すのは禁止、一方的な殺戮は禁止、あるのは人同士の心の掛け合いだ。 まぁ、そういった側面の物語もあるにはあるけれど、万人受けはしないだろう。書きたいのは明るく快活な恋愛物語だ。 寝不足の頭でふらふらしながらテレビの電源を入れてニュースのアサウンサーの声に耳を傾ける。いや、もっとも足りていないのは………… リッ、ジリリリリリリリリリリリッッッツツツ!!!!  寝不足の頭を右から左にものすごい爆音が突き抜けていった。またかと私は頭を抱える、今日もあの子を起こしにいかなくちゃいけない
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