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出逢いを求める男女に夢を与える仕事なの、と熱を込めて語る彼女に賛同し、あなたには営業の素質がありそうだわ、とかおだてられ、沙希がディナー・クラブに転職することになったのは三年前だ。
「怖気づいたか、ドタキャンか、というところじゃないのかい?」
落合は手品師のような勿体ぶった手さばきでワイングラスを拭きながら、沙希にそれとわかる目配せをした。
芝居がかったキザな仕草が嫌味に感じられず、バーテンダーの黒いベストと同じぐらいしっくり似合う、年齢不詳の男。
長髪をポニーテールにした浅黒く彫りの深いエキゾチックな風貌で、曽祖父がスペイン人の血を引くという噂もあながち嘘ではなさそうだ。
前には、タベルナでの夕食会に参加した女性が落合に一目惚れし、その後も足繁くバーに通って来たということがあった。
うちの客に手を出さないでちょうだい、と沙希が眉をしかめると、わかっているよ、と落合はにやりとしてみせ、その後どうなったのかは知らずじまいだ。
バーの入口に背の高い男が姿を現わし、沙希は瞬時に仕事用の笑みを浮かべた。
「高橋さん、まだ皆さんお見えになっていないので、ドリンクでも召し上がってお待ち下さい」
高橋直人。日本鉄鋼に勤めるエンジニアで歳は三十七歳。学生時代には駅伝の選手をしていたそうで、趣味は尺八の演奏という変り種だ。
沙希は頭の中で高橋のプロフィールを復唱する。クラブに先月登録したばかりの新規会員だった。
ディナー・クラブではかなり高額な入会金の他に、五回分の紹介料を前取りすることになっている。最初の出逢いが不調に終わると次回の斡旋を了承してもらうのに時間がかかって客の回転が悪くなり、営業成績に響く。
付き合ってみたいと思う相手に巡り逢わなかったとしても、高橋に今宵の夕食会を存分に楽しんでもらわねばならない。
「集合時間は、確か六時四十五分でしたよね」
沙希の他には年配のカップルと三人連れのサラリーマンしかいないバーを怪訝そうに見渡して、高橋が独り言のように呟いた。
ハンサムと呼べないこともない顔立ちだし、女性の要望書に多い、背の高い男性、という点もクリアしているのだが、覇気のない喋り方が欠点だ。
「高橋さん、前にも申し上げましたけれど、女性は快活な男性に心惹かれるものなんです。
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