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更に言ってしまえば、先日の地元のコンサートは、こんな子供向けのプログラムではなかった。ほぼ全曲クラシックだった。確かに、大人だったら一度や二度、聞いたことのある曲を多めに演奏したけど、それでも幼稚園児が好む曲は・・・皆無だった筈だ。
「・・・覚えてないの?」
すると一瞬、杏樹は傷ついたような、悲しそうな顔をした。
「え?何を?」
思わず聞き返した。けれど杏樹は、「なんでもない」と首を横に降った。
「・・・あの時のピアノ、凄く上手いなって思ったの。
この先生に習いたいって思ったの」
さっきの、傷ついたような顔が気になった。けど、・・・どうやら理由なんかなかったらしい。
それにしても舞台で演奏するピアニストを捕まえて「凄い上手い・・・」って・・・
私は思わず笑ってしまった。
「凄い上手だった?」
その笑いを堪えながらそう聞き返すと、杏樹は大きく頷いた。
「うん!
私もあんな風に弾けるようになりたいの!」
大きな黒い目をきらきらさせてそう言った。
「ここでは、杏樹ちゃんが今まで通っていた音楽教室みたいなリトミックや、ダンスは教えられないよ?
私が杏樹ちゃんに教えてあげられるのは、ピアノだけよ?
面白くないかも知れないけど、それでもいい?」
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